« アジア経済研究所 - フォトアーカイブス「1960年代の開発途上国」とアジア動向データベース | トップページ | 公立図書館で月刊「コピライト」「最新号」の掲載論文がコピーできなかった件 »

2007/08/14

門倉 貴史『派遣のリアル-300万人の悲鳴が聞こえる』 (宝島社新書 243)

個人的なことで、急に非正規雇用が身近に感じられる状態になったので、たまたま404 Blog Not Foundで紹介されていた『派遣のリアル』と、同じく門倉貴史氏の『ワーキングプア』を買ってきた。


章立てはこんな感じだ。


  • はじめに
  • 第1章 日給6000円で働く人たち
  • 第2章 10分で分かる派遣の歴史
  • 第3章 使い捨てられる女性派遣の現実
  • 第4章 ネットカフェ難民と団塊派遣
  • 第5章 労働ビッグバンは派遣に何をもたらすのか?
  • あとがき


派遣社員という働き方はどのようにして成立し、広がってきたのか。「二重派遣」「偽装請負」の何が問題で、その背景に何があるのか。いつでも「切れる」「安く」「使える」労働力を欲している企業の要請と、それに棹差した規制緩和。これに答える形で成長してきた人材派遣会社。構造的に正規雇用の機会を奪われ、派遣の世界に取り込まれていく人々。

僕が稚内に移り住んだ2000年前後から、派遣の規制緩和が進み、あらゆる業種で派遣労働の仕組みが活用されるようになったようだ。なので、テレビCMに出てくるような「プロフェッショナル」なイメージとはかけ離れた派遣労働の実態を、僕はあまり目にすることがなかったのかもしれない。

本書はこうした派遣労働をめぐる実態の変化を客観的に述べるとともに、各章で2人ずつ、実際に派遣社員として働いている人々(及び派遣会社正社員)へのインタビューも掲載、これがまた、読者の理解を助けている(どんより暗い気持ちにもなる)。青森の地方紙でもよくみかける、高給をうたった愛知その他での自動車工場での仕事。そこにも派遣労働の仕組みがずいぶん前から入り込んでいるようで、地方から派遣で移り住んできた人たちのインタビューが掲載されていた。地元の低賃金の仕事に比べると、破格の給料に見える工場労働というのが、実は「話が違う」という事例に満ち溢れているというのがよくわかる。一ケーススタディに過ぎないけれども、しかし「調子のいい話で地方から人を連れて行く」という基本構造は昔から変わっていないはずだし、派遣の仕組みが入ることで、さらに現実は厳しくなったのかもしれない。

404 Blog Not Found:書評 - 派遣のリアル.」が、本書220ページを引用しつつ、以下のように書いている。


『資本論』を著した経済学者のカール・マルクスは、労働が生活費を稼ぐための単なる手段に成り下がる現象を「労働の疎外」と呼んでいる。現在、派遣社員として働く人たちの職場では、こうした「労働の疎外」が常態化していると言えるのではないか


とはいえ、派遣社員を正社員化するというのは、労働が商品ではないにしても、労働と商品が切っても切れない関係であるがゆえに、短期的には正しい答
えとなりえても、長期的には正しい答えとはますますなりがたいのだろう。正社員になったはいいが、今度は会社ごとなくなりましたなどというもっと笑えない
結末になる公算は、発展途上国の発展を疎外できない以上ますます大きくなるのだから。


むしろ、派遣社員こそ「普通の社員」となり、「社に尽くす」のではなく「職に尽くす」というのを徹底させた方がいいのではないか。著者はその成功例
として、英国の事例を取り上げている。かの国では、派遣社員は「同じ仕事を安く」ではなく「よりいい仕事をしてもらう」ための仕組みとして確立しているよ
うで
給与も正社員より派遣社員の方が高いのだそうだ。

小飼さんの書評の中身をすっかり忘れていたのに、僕の頭も「労働の疎外」を含むこの段落に反応した。しかしこうした現実に苦しむ人たちを見て「生身の人間」だと認識してもなお、企業は今の構造的な問題を容易には解決できないのではないかと、僕も思う。

英語のできない平均的日本人は、いかに苦しくとも、日本語の通じる世界でしか、チャンスを求めることができない。語学だけではなく、さまざまな専門スキルを持っていなければ、「職に尽くす」人間にはなりえないのだけれども、しかしいずれにしても、日本語しかできない日本人は、この言語空間の中でしか、その専門能力を生かすことができないのであり、そこに閉じ込められ、職を探している僕たちは、誰かを非正規雇用に追い込むような形でしか、社会を維持できないということになりそうだ。狭い日本での「いすとりゲーム」から抜け出したかったら、英語やその他言語でも生きられるようにしておくよりほかない。返還以後、英語だけでなく中国語も習得し、本土に仕事を得るたくましさを、香港の人たちは持っていたと思う。見習いたいなあと思って10年、僕になにか成果があったかというと、心もとない。

先日、茂木健一郎さんがブログで、「自分の英語を商品のレベルまで高めたいという気持ち」で、英語での講義にも取り組んでいると書いていた。僕も、日ごろのルーティンにひたってごまかすことなく、きちんと英語での地道な仕事にも取り組んでいきたいし、それは学生に対するフィードバックとしても、重要なものになるのだと思う。

« アジア経済研究所 - フォトアーカイブス「1960年代の開発途上国」とアジア動向データベース | トップページ | 公立図書館で月刊「コピライト」「最新号」の掲載論文がコピーできなかった件 »

コメント

高齢化社会が進んで若者に負担がくると言ったり、派遣で扱い易い労働力として新しい世代の成長を阻害したり、いつまでたっても外国語教育を無視した体制で国民を閉じ込めたりと、

先進国、最先端の国日本は…

相変わらずですね。

あれ?同じようなうたい文句の法人がどこかにあったような…

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

» 派遣社員の感じる憂鬱:派遣のリアル [本読みの記録]
派遣のリアル-300万人の悲鳴が聞こえる (宝島社新書)作者: 門倉 貴史出版社/メーカー: 宝島社発売日: 2007/08/10メディア: 新書 派遣労働者にインタビューをして、そこから問題提起をした一冊。 実情を知った上で問題提起をする形式になっていて、一応の説得力がある。 ... [続きを読む]

« アジア経済研究所 - フォトアーカイブス「1960年代の開発途上国」とアジア動向データベース | トップページ | 公立図書館で月刊「コピライト」「最新号」の掲載論文がコピーできなかった件 »

フォト

Tools

  • Twitter Follow
  • Facebook Feed
  • Facebook Fanpage
  • NSMC

Twitter

Booklog

  • Booklog
無料ブログはココログ

Rakuten

From Flickr

  • www.flickr.com
    This is a Flickr badge showing public photos from shinyai. Make your own badge here.

zenback

Postrank

2020年6月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30        

log